【蔵の解体】 ありのままの話

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(左から、番屋(ばんや)、槽場(ふなば)、もと場と呼んでいる)

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山口酒造場には、江戸時代に建てられた蔵が6棟ある。どれも築200年以上
酒蔵によくある「代々大切に使ってきた蔵」だ

これら三棟は1991年の台風で半壊したが、両親が文字通り体を張って守ったのを覚えている
誉めすぎかもしれないが、あのころの両親はいつも泥にまみれていたけど、かっこ良かった

しかしこの夏、江戸六棟のうち、これらの三棟を解体することに

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(小さいころ、よくここで遊んだ。悪いことでもしているかのようで、わくわくした)

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(もと場一階。自分が蔵に戻ったころ、大吟醸はここで仕込んでいた。前の杜氏さんとの思い出の場所)

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修理をして、なんとか建物として残せないか?
作業しやすい空間に改築できないか?
移築はできないものか

図面や見積もりが次々と届く
半年たち、一年たち・・・
しかし、なかなか将来の絵が描けない

「出来ないはずはないよ。もっと、いろんな人に聞いてごらん」
慣れ親しんだ蔵を解体したくない気持ちは、家族も一緒。
もう一度、いろいろな人に聞いてみる

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(最初に梁が折れたのは、槽場の一階。水を沢山使う場所なので、痛みも激しかった)

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つてを頼り、大手ゼネコンの方や古民家再生チームの方々にまでお世話になった

最初は、専門の方が意気揚々とやってくる
しかし、専門家であればあるほど、厳しい現実を話してくれる

思ったより、蔵は傷んでいた

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(番屋一階。昭和20年代ごろから平成10年ごろまで貯蔵に使っていた場所)

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まず費用の問題
予想はしていたが、改築は新築するよりも、経費がかかる
江戸の蔵を保存するなんて、こんな文化的なことにどれだけのお金を使えるか・・・

自分の使命てなんだろう、みたいなことまで考えた
(余談だが、移築が意外と安いことは勉強になった)

保存に向けて費用的な問題は、もしかしたらなんとかなるかもしれない
あとは、今後実用的な使い方が出来るかどうか・・・

しかし、今の酒造りに必要なカタチに蔵を改築しようとすると、いろんな法律が立ちはだかる。

建築基準法
用途地域
消防法

今更言いたくないが、規制、ルール、が厳しすぎる
堂々巡り 袋小路

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(ここ数年立ち入り禁止にしていた番屋一階。よく壊れずにいてくれた)

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法律の通り耐震補強などを施すと、もともと建物がもっていた雰囲気がなくなってしまう
しかも、今の酒つくりにはむかないカタチ

「今、使いにくい」
このことが決定的だった

解体して新しい蔵をたてよう! と腹をくくったのが一年半前
迷いがなかったかといえば、ウソになる・・・

が、常々親が言っていた言葉を思い出し、背中を押してくれた
「重要文化財じゃあるまいし。自分のよかごとしていいとよ」

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(番屋の二階。状態の良い木材だけを保存することに)

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(槽場二階の木材も一部を保存)

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(槽場一階。平成になって二度補強工事をしたが、柱が腐っておりさすがに寿命だそう)

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(モノ置き場だった、もと場の二階。改めて見ると、立派な梁組み)

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(200年もの間ありがとう。感謝の気持ちをこめて出来るだけの掃除をした)

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お盆前に、歴代の杜氏さんに挨拶をしてきた

私が小学生のころ杜氏をしていた大津正信翁のご仏壇の前で、なんでだろう、涙がとまらなくなった
でも、振り返ると、奥さんも一緒に泣いてくれていた

杜氏さんたちには悪いことしたけど、きっとご加護もあるのだと思えるようになった