仕込49号~酒母編~

仕込49号のモト(酒母)は今日で3日目。プクプクと泡が出ています。(業界ではかに泡(又は水泡)といいます。蟹が出す泡に似ているから)。1個の酵母は2時間に1度、2個に分裂します。1個の酵母が24時間後には4096個に増えている計算。ものすごい増殖力です。酒母では、他の雑菌を増やさず、アルコール酵母だけを増やす「純粋培養」が目的なのです。 

仕込んだ日の夕方
<1日目。仕込んだ日の夕方。表面はかちかちに膨れています>

泡が出てきました泡は酵母が出した炭酸ガス。呼吸した証拠
<2~3日目。カニ泡が出ている。>

繰り返しになりますが、酒母の目的を一言で言うと、アルコールを出す酵母を純粋に培養すること(数を増やすこと)です。(酵母とは、糖分をエサにしてアルコールを出す生き物)

また、雑菌が混入しないようにするため、乳酸を沢山含ませることも重要。乳酸のすっぱさによって、雑菌が繁殖しにくくなります。(アルコール酵母はすっぱい環境に強いことを利用します)

①元気な酵母が沢山いること
②すっぱい環境にあること
が良い酒母の条件です。

(つづく)

↓↓以下はもっと詳しく知りたい人だけ読んでください↓↓

酒母の種類(古い順)。方法の違いで次の4つが有名。理屈は同じです。

●きもと系酒母(乳酸を添加しないやり方) 
・きもと→酵母も乳酸も添加しない。
・山廃もと→酵母は添加するが乳酸は添加しない。
●速醸系酒母(乳酸を添加するやり方)
・速醸もと→酵母も乳酸も添加する
・高温糖化もと→ (同上)
*「乳酸」は市販されているものを使います。
*「山廃」と「速醸」は同年(S28年頃?)醸造協会が紹介した。安全醸造のため。

手順は違いますが、出来上がる酒に味の違いはでません。製法の違いです。
講習会などで「山廃ってなんですか?」とよく聞かれますが、私は、「味の違いは全くありません」と答えるようにしています。きもと系酒母の方が、酸味豊かで味わいがある…というのは間違いでしょう。

仕込49号~酒母編~

膨れてきました。「モト」のことを「酒母(しゅぼ)」といいます。まさしく、酒造りの母なる存在。すべての工程のスタートです。

今日は朝から、仕込49号の酒母仕込を行いました。
「仕込む」ということは、酒造りにおいては「米」と「米麹(こめこうじ)」と「水」を混ぜあわせることをいいます。
「米」とは、当日蒸した米のこと。酒造りでは、米は炊かずに蒸します。
「米麹」については、後日詳しく書きますので今日は割愛。
「水」とは仕込水のこと。無味無臭で鉄分が無いこと等が条件です。

昔から、酒造りにおいて大切なことは「一麹、二モト、三造り(いちこうじにもとさんつくり)」と言います。その意味では、酒母造りは二番目に大切な要素です。
酒母がどうして重要なのか、また、酒母の役割などについてはまた後日。
(つづく)

仕込49号

たなから純米酒昨年から、山田錦の栽培をご紹介してきましたが、あの山田錦も精米・枯らし期間がおわり、ようやく仕込の順番が回ってきました。
「庭のうぐいす たなから」という純米酒を造っていきます。

今日から順次、お酒の造り方を「仕込49号」と題しましてご紹介していきます。

お酒を造るときは、まず「モト」を立てます。モトにはいくつか種類ありますが、今回は中温速醸モトという技法で約一週間で完成。

イメージとしては、モト(8日)→仕込(4日)→発酵(25日)→しぼり(4月上旬)という感じです。

精米の話 あとがき

「理由はわからないけど、昔からこうしていた…」酒蔵でよく聞かれる言葉です。
古い職人や技術者もこのような言い回しをしますが、昔の人が理屈もわからずやっていたことは大体正しいようです。

精米はとても大切な作業だと「昔から」いわれていました。
昔、酒蔵には「精米杜氏」といわれる精米だけをする杜氏がいたほどです。

酒造りの道具(昭和初期)

本来杜氏とは、野球でいう監督のような存在で、オーナーでも選手でもない、酒造りの全てを指揮する最高責任者であり、もちろん一人だけしかいません。
たとえ蔵元と意見と違っても杜氏がある程度優先されるのです。それくらい酒造りにおいて杜氏とは別格の存在で、荒々しい職人たちも杜氏の言うことならばと素直に従ったものです。
良い蔵には必ず名杜氏がいたものです。

しかし、精米になると話は別だったのでしょう。杜氏からどんな指示をされても、精米杜氏は自分の精米理論を押し通したらしいのです。

精米とはとても奥深く、現代の技術をもってしても完璧な精米というのは難しいものです。米の品種はもちろん、その年の米の硬さや気温などの条件によって精米のやり方を変え、精米が終わると、「枯らし」といって、徐々に米を冷やし仕込に使えるように手入れしなくてはいけないのです(乾燥した水分をもとにもどす作業)。

精米によって、酒の仕上がりは随分ちがってくるものです。

精米の話⑤

 「精米の話」最終話です。

お米を削った割合で、出来上がるお酒の種類(表示)が変わります。
一般的に米を削れば削るほど味が淡白になります。これは、米の周りの部分にたんぱく質などの味の成分が多いため。

玄米の重量を100とすると…
50以下(精米歩合50%以下)  大吟醸、純米大吟醸
60以下(精米歩合60%以下)  吟醸、純米吟醸、特別純米酒、特別本醸造
70以下(精米歩合70%以下)  本醸造

という表示ができるようになります
ちなにみ純米酒は精米歩合の規定がなく、玄米で造っても「純米酒」と表示できます。

この表示に関しては、一般の消費者の方にはとてもわかりにくいものなので、なるべく簡素化した法律に改正されればいいなと個人的には思っていますが…

精米の話はここで終わりです。
全5話、難しい話にお付き合いいただきありがとうございました。

精米の話④

 去年は秋口の気温がとても高かったので、今年のコメは粒が小さく硬い傾向にあります。

通常は、コメが硬いと精米に時間がかかりますが、今年は比較的早めに精米が出来ています。去年の米の特徴なのでしょうか、不思議な感じです。

精米で大事なのは、精米途中に温度を上げないこと、時間をかけて丁寧にすることです。(精米すると摩擦熱で米が高温になりやすい)
効率を上げて急いで精米するとコメが割れてしまい(砕けてしまい)、たとえば40%に精米したつもりでも(100kgの玄米が40kgの白米にけずれたつもりでも)、実際は5kg分は砕けて消えておりおり、残った白米の重量は確かに40kgだけど、実際は精米歩合45%までしかけずられていない…

なんてこともよくある話です。(無効精米歩合5%と言います。このときの見かけ上の精米歩合は40%ですが、真正精米歩合は45%なので40%と思って酒を仕込んでも思ったとおりの酒質になりません)

すこし難しい話でしたが、酒造りにおいてはとても重要な話でした。

精米の話③

豊田壽 社長「ヒサシ通商」という老舗の精米業者さんが福岡県久留米市にあります。
山口酒造場のビジネスパートナーで、大変信頼のおける精米専門の業者さん。 

豊田社長には当社の「造りたい酒」を十分に理解していただいておりますので、当社は安心して大切な精米作業を委託出来ています。

面倒な打合せもいつも対応していただきます少し専門的な話になりますが、どうして今回は無効精米歩合が高かったのかなど、つっこんだ打ち合わせが頻繁にできるのも地元ならでは。
豊田社長は元気いっぱいの方で、いつ寝ているのかな?とこちらが心配するほど夜を徹して工場を見廻り、常に鋭い目を光らせる方。

このような方々のご協力なしには「庭のうぐいす」の酒造りは出来ないのでした。

精米の話②

縦型精米機<縦型精米機>

江戸時代には水車でおこなわれていた精米は、現代は縦型精米機を使っておこないます。
余談になりますが、水車での精米ができるようになってから、良質の酒が大量に出来るようになったといわれています。

ロールが回転して、摩擦で米がすこしづつ削れます<緑色のロールが回転します>

初めの写真の縦型のところに米がたくさん入っており、一番下にあるロールという思いたい円盤(写真2)が回転します。米が直接ロールによって摩擦されることにより、米粒が徐々に小さくなっていきます。目標の精米歩合になるまで、何度も何度もロールによって削られます(精米)されます。

たとえば精米歩合70%(30%を削り落とす)にするには11-12時間。デリケートな山田錦だと19-20時間かけます。山田錦は米がやわらかいので砕けやすいのです。

たとえば、大吟醸用の山田錦は、天気によっても違いますが、おおよそ3日半程度、75-85時間もかけて温度を上げないように、ゆっくりゆっくり丁寧に精米していきます。

回転計

精米の話①(全5話)

食べる米に比べて、日本酒用の米は長い時間と手間ひまをかけて精米していきます。精米とは米を削るだけの工程ですが、実は大変重要な工程なのです。

米の回りには、たんぱく質などの成分が多いので、米を削ることで、酒にすると美味しくない成分を取り除いていきます。 一般的に70%までけずれば十分ですが、磨けば磨くほど酒の味は淡白になっていきます。

また、品種別・産地別に米の特性が違うため、精米には職人的な「勘」と「経験」も必要とします。たとえば平成19年度は大変夏が暑かったので、気候的要素も考えなくてはいけないなど。
玄米福岡県糸島産の山田錦を50%まで削ったもの兵庫県産の山田錦を35%まで削ったもの

日本酒のラベルに書いてある「精米歩合70%」とは100kgの重さの玄米を70kgの重さまで削ったということです。上の写真は左から、玄米、50%、35%の白米。造りたい酒によって、精米歩合を変えていきます。

つづく

19by酒造り

1月も中旬に入り蔵もすこし落ち着いてきましたが、酒造りは今が最盛期に差しかかっています。

今日から、すこしづつ19by(平成19醸造年度)の造りをご紹介していきます。

まずは酵母の紹介。

こちらは山口酒造場がもっとも多く使用する9号酵母という清酒酵母で、写真のものは9号酵母を純粋培養したもの。大吟醸用に特別に培養された酵母。

9号酵母は味と香りのバランスがとても良い酒に仕上がります。

\KA-1を純粋培養したもの

 酵母とは自然界に広く生息する微生物ですが、日本酒を造る場合、別途純粋に培養した酵母を後から添加するのが一般的です。(酵母は分裂しながらどんどん数が増えていきます)

ちなみにワインの場合はぶどうの実の中に酵母菌が生きているので、ワインを造るときは酵母も水もなにも添加せずに製造していきます。

日本酒は酵母の種類よって、酒の基本的な香りや味がほぼ決まります。

 酵母は「糖」を「アルコール」に変える働きをしますが、分かりやすく言うと、「アルコール」とは酵母の「オシッコ」という表現も出来ます。
つまり、すこし乱暴な言い方になりますが、酵母という微生物が食べた後の排泄物がアルコールなのです。

 ちなみに9号という酵母は、昭和28年に熊本県酒造研究所で分離されたので、「熊本酵母」や「熊本9号」などとも言われ、現在全国でもっともポピュラーな日本酒酵母ではないでしょうか。

現在は、とても吟醸の香りの強い酵母や、りんご酸などの「すっぱみ」をたくさん作る酵母など、いろんな酵母が開発されています。

つづく